月面農場は月に滞在する人々の栄養をまかなうことができるのか?

sora note vol.5

前回、月面農場で育てることが想定されている8種の作物をを紹介しましたが、8種の作物のみで、私たちに必要な栄養素をまかなうことができるのでしょうか。
今回は、30~40歳の日本人男性を例に、栄養素の過不足を計算していきましょう。


8作物種でまかなえる栄養素


30~40歳男性(身体活動レベル2 (注a))に必要な栄養素は、 厚生労働省が示す「日本人の食事摂取基準2015年版」を用いることとします。「食事摂取基準」は、健康的な個人並びに集団を対象として、国民の健康の保持・増進・生活習慣病の予防のために参照するエネルギー及び栄養素の摂取量の基準を性年齢別に示すものです。

注a:身体活動レベルとは、1日あたりの総エネルギー消費量を1日あたりの基礎代謝量で割った指標で、身体活動レベル2は、「座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業・接客等、あるいは通勤・買物・家事、軽いスポーツ等のいずれかを含む場合 」を指します。(*1)

一日の食事は3食に分けて摂取することになると思いますが、ここでは一日分として、玄米400g(≒茶碗2.5杯分) 、サツマイモ150g( 小サイズ約1本分)、ジャガイモ75g(通常サイズ半分強)、大豆(乾燥重量)120g、エダマメ50g(約10房分)、大豆油30g、リーフレタス150g(約半玉分)、ミニトマト200g(約15個分)、キュウリ100g(1本弱)、イチゴ50g(約2個分)を想定します。これをもとに、一日に摂取する栄養素の合計と必要量を比べてみましょう。

注b:ビタミンAの摂取基準は、レチノールだけでなくビタミンAの前駆体すべて合わせて、レチノール活性当量(RAE)として算出した値。
注c: ナイアシンはニコチン酸とニコチンアミドの総称。アミノ酸の一つであるトリプトファンからも体内でナイアシンが合成されるため、トリプトファン含有量も考慮してナイアシン当量(NE)として算出した値。


不足が予想される栄養素


日本人の食事摂取基準と8作物種からの補給量を比較して、不足が予想される栄養素は、カルシウム、ヨウ素、セレン、ビタミン A(レ チノール)、ビタミン D、ビタミン B2、ビタミン B12の 7 つの栄養素です。

この中でもカルシウムとビタミンDの不足には特に注意が必要です。 宇宙環境では筋・骨量の減少が懸念されるため、筋肉や骨の形成に関わる栄養素をとることが重要です。(*2)


実際に、現在も、ISSに滞在する宇宙飛行士は、不足するビタミンDを補うためにサプリメントを持ち込んでいます。


対象とした 8 作物種で、エネルギーを始め炭水化物、たんぱく質、脂質の 3 大栄養素を満たすことは可能ですが、ビタミン・ミネラルの過不足が課題となりそうです。これらによって引き起こされる健康リスクを引き下げるような食生活が必要だと考えられます。

足りない栄養素を補うことができる食品を見つけ、月面農場に持っていくというのも一つの手かもしれません。例えば、ビタミンDは野菜にはほとんど含まれていませんが、魚類やキノコ類には豊富に含まれます。また、地球上での日常生活では、紫外線を浴びることで体内でビタミンDを合成し、食品からの摂取のみでは足りない分を補っています。詳しくはまた、今後の「sora note」で。

摂取が必要とされている栄養素には、それぞれ重要な働きがあります。エネルギーのもとになる栄養素、体をつくる栄養素、体の調子を整える栄養素、心身ともに健康に暮らすためにはどれも欠かせません。宇宙での暮らしを想定し、栄養素について考えることは、現在の食生活を見直す良いきっかけにもなりそうです。

(今回は30~49 歳の男性(身体活動レベル 2)を基準に検討を行いましたが、他の年齢または、女性については栄養素の必要量や耐用量も変わってくるため、別途検討が必要です。)

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【参考文献】
*1)日本医師会.”参照体重における基礎代謝量”. Japan Medical Association.
https://www.med.or.jp/forest/health/eat/01.html
*2) 宇宙航空研究開発機構.”宇宙医学からみたリハビリ”.JAXA│宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センター.https://iss.jaxa.jp/med/healthcare/interview/rehab/physiatry/
宇宙航空研究開発機構.”月面農場ワーキンググループ検討報告書”.JAXA│宇宙探索イノベーションハブ.2019-05-31.https://www.ihub-tansa.jaxa.jp/Lunarfarming.html