宇宙栽培のイマ 〜野口宇宙飛行士のバジル栽培〜

sora note vol.2

SORANO SATELLITE MAGAZINE 第2報目です!
前回は、地球上で行われている宇宙農業への挑戦について解説しました。(前回の記事は
こちら
続いて今回は、日々進んでいるISSでの植物栽培実験のご紹介と、重力や日光のないISSでも植物がまっすぐに伸びていける仕組みをお話します。
知っていると、つい人に話したくなる生命の不思議を楽しんでください!


ISSからお届け!野口宇宙飛行士によるバジル成長記録


現在、野口聡一宇宙飛行士が、ISSに滞在し、様々なミッションに挑戦しています。
野口宇宙飛行士が進めている実験の一つに、30日間のバジル栽培実験があり、ご本人の公式Twitterで、#きょうのバジル のハッシュタグとともに、毎日の成長の様子が日々公開されています。

2021年2月17日に始められたこの実験は、sora note vol.2公開の3月14日現在、終盤を迎えています。

ここで、第4週目を迎える野口宇宙飛行士のバジルと、同じくTOWINGの実験室で栽培していた第4週目のバジルを比べてみましょう。(品種は異なりますがご了承ください💦)

(左:野口聡一さんのツイッターよりISSのスイートバジル・右:TOWINGのホーリーバジル)

ISSでは地球上とは環境が大きく異なって、私たち人間は地球上と同じようには生活できません。それに比べ、ISSのバジルの育ち方は地球上のバジルの育ち方と似ています。よく見ると、ISSで栽培中のバジルも土から真っ直ぐ上向きに伸びています。不思議に感じませんか?

ここからは、植物が伸びる方向に関するメカニズムを見ていきましょう。


宇宙で植物はどっちに伸びる?


地球上では、植物は地面から上に向かって芽や茎を伸ばし、下に向かって根を伸ばします。
植物を鉢植えごと倒しても、逆さにしても、芽や茎は上に、根は下に向かって伸びていきます。

これには、地上部は「光屈性(ひかりくっせい)」、地下部は「重力屈性」が深く関係しています。

光屈性には、光の方向に屈曲する正の光屈性と,光とは反対方向に屈曲する負の光屈性があり、植物では葉や茎は正の光屈性を示し、根は負の光屈性を示すのが一般的です。(要するに、地上部に出ている葉や茎は、光の刺激を感じた方向に向かって伸びていき、地下部の根は、光の刺激とは逆の方向に伸びていくということです。)
これが、植物が茎や根を伸ばす方向に関するメカニズムの一つです。

もう一つの重力屈性について、植物が重力を感じる仕組みには、いまだ多くの不明点も残されていますが、植物には、動物と共通する重力センサーの仕組みがあるということが分かっています。
例えば、ヒトが耳の中の小さな耳石が沈むことで上と下を判断するように、植物は細胞内のアミロプラストが沈むことで重力を感受します。アミロプラストとは、デンプン粒を含む細胞小器官(オルガネラ)のことです。

野口宇宙飛行士の実験からも分かるように、宇宙空間での植物栽培は上からライトを当てることで、植物は光屈性にしたがって、ライトに向かってまっすぐ上に伸びています。

では、重力のない宇宙空間で、光も制限すると植物はどのように伸びていくのでしょうか?

国際宇宙ステーション「きぼう」で行われた実験によって、植物の成長の方向を決めるもう一つの要因、水分の多い方へ曲がる「水分屈性」が見出されました。

実は、1998年のスペースシャトル実験(STS-95)で、地上では重力に従うキュウリの側根が、宇宙では外側に飛び出してきたことが観察されていました。このことから、重力がない宇宙では、根は水分の多い方に向かって伸びていくことが予想されました。

根の先端には、重力や水分などの刺激を感じる細胞があるのですが、地球上では重力屈性がより強く現われるために、水分屈性に気づくことができなかったのです。

植物内のオーキシンが、重力屈性と同じように水分屈性に作用していることが分かりました。オーキシンとは、植物の成長を促す作用を持つ、植物ホルモンです。このオーキシンの働きを司る遺伝子の、詳細な解析にもつながりました。

オーキシンの働きと根の曲がり方(根の両側でオーキシンの働く量が異なり、伸び方に違いがでることにより根が曲がります。この図では湿度勾配刺激(水分屈性)を示していますが、重力の刺激(重力屈性)でも同様です。)

宇宙航空研究開発機構.”ライフサイエンス実験 Hydro Tropi”.JAXA.https://iss.jaxa.jp/kiboexp/theme/first/hydrotropi/seika.html

重力屈性に加えて明らかになった水分屈性の仕組みは、根が曲がる方向をコントロールするなど、栽培技術に応用できそうです。

今回の記事では、植物の伸長メカニズムについて解説しました。宇宙での植物栽培実験が、地球上では気づけなかった植物のメカニズムを見つける糸口となることもあるのです。 不思議で面白い、植物の成長メカニズムを、ご家庭のプランターでも試してみてください。



【参考文献】
1.宇宙航空研究開発機構.”宇宙を感じる植物のしくみ”.JAXA.2019-12-23.
https://www.ihub-tansa.jaxa.jp/Lunarfarming.html
2.宇宙航空研究開発機構.”ライフサイエンス実験 Hydro Tropi”.JAXA.https://iss.jaxa.jp/kiboexp/theme/first/hydrotropi/seika.html