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食品・農業サプライチェーンのカ...

2026/10/7

投稿者:スタッフ朝倉

食品・農業サプライチェーンのカーボンインセットとは ― 企画を始めるときに考える5つのこと

執筆:山田 大河(株式会社TOWING 最高サステナビリティ責任者〔CSuO〕)

多くの企業が、2050年のネットゼロと、2030年・2035年の中間目標を掲げ、Scope3(サプライチェーン全体の排出)の削減に取り組んでいます。その中で、「カーボンインセット」という言葉を耳にする機会が増えてきました。

一方で、言葉は耳にしても、自社で何をすることになるのかまでは分かりにくいのが実情です。本連載では、インセットにかかわる規格や考え方を順に整理し、皆さんが社内でインセットの企画を立てるときに役立てていただくことを目指します。

1回目の本稿では、まずインセットとは何かを整理します。そのうえで、企画を立てるときに考える5つのことを示します。

カーボンインセットとは

インセットの意味

インセットは、一般に、自社のサプライチェーンの中で、温室効果ガスの排出を減らす、または大気中の CO2 を取り除いてためる取り組みを指します。

企業の排出量は3つに分けて数えます。自社で燃料を燃やす分が Scope1、購入した電気や熱の分が Scope2 です。原料の調達から製品の廃棄まで、サプライチェーンで生じる分が Scope3 です。食品・農業の会社では、一般に原料をつくる畑や牧場での排出が Scope3 の大きな部分を占めます。インセットは、その原料の産地などで、取引先と一緒に排出を減らしたり、炭素をためたりする取り組みです。

取り組みの成果を Scope3 の報告に使うのか、製品のカーボンフットプリントに使うのか、取り組みそのものを顧客に伝えるのかは、その先で分かれます(論点①で後述)。入口の意味はどれも同じです。本連載では、このうち、取り組みの成果を自社の Scope3 の数字に反映するものを中心に扱います。

オフセットとの違い

よく比べられるのがオフセットです。オフセットは、自社のサプライチェーンの外で行われた削減や除去の成果を、カーボンクレジットとして購入する取り組みです。カーボンクレジットとは、削減量や除去量を第三者が認め、売買できる形にしたものです。

2つの違いは、取り組む場所と、自社の数字への表れ方にあります。インセットは自社のサプライチェーンの中で行うので、取り組みの効果を自社の Scope3 の算定に反映できる可能性があります。そのためには、取り組んだ農場などで取ったデータ(一次データ)で測定することが必要です(論点②で後述)。削減なら排出量が減り、除去なら排出とは別の「除去量」として報告します※1。一方、購入したカーボンクレジットは排出量とは別に報告するもので、Scope3 の排出量そのものは減りません※2。

図1 インセットは自社のサプライチェーンの中での削減・除去、オフセットは外で生まれたカーボンクレジットの購入。取り組む場所と、自社の数字への表れ方が違う

削減と除去 ― 2つの経路

インセットには2つの経路があります。1つは削減です。肥料の使い方や燃料を変え、原料をつくるときに出る温室効果ガスを減らします。もう1つは除去です。農地にバイオ炭をまく(施用する)などして、大気中の炭素を土の中にとどめます。

TOWING は、高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」を使った炭素除去に取り組んでいる会社です。そうした立場だからこそ、概念の話にとどまりやすいインセットを、本連載ではバイオ炭による除去を中心に扱い、実務の面まで理解していただけるように書いていきます。考え方の多くは削減にも応用できますので、削減を検討している方にも役立てていただけると思います。

企画を立てるときに考える5つのこと

インセットの企画では、次の5つを考えます。

  1. 目的 ― 成果を何に使うか

  2. 対象と介入 ― どの原料・産地で、何をするか

  3. トレーサビリティ ― 原料の出どころをどこまで追えるか

  4. 算定と証明 ― どう数え、誰に確かめてもらうか

  5. 費用と体制 ― 誰が負担し、誰と進めるか

介入とは、サプライチェーンの中で行う具体的な取り組みのことです。英語では intervention(インターベンション)と言い、インセットに近い意味で「バリューチェーン・インターベンション」「Scope3 インターベンション」という言葉が使われることもあります。

5つの関係を整理すると、次のようになります。①目的が全体を決めます。何に使うかで、従う規格も、要るデータも変わるからです。②と③は行き来しながら決めます。原料と産地を選んでも、そこが追えなければ選び直しになるからです。④は、②③と並行して考えます。ただし除去を選ぶ場合は、③でどこまで追えるかが、④で数えられるかどうかの前提になります(③で後述)。⑤は①〜④の答えを受けて決まります。

図2 企画で考えることは5つ。①目的が全体を決め、②と③は行き来し、④は並行して考える(除去では③が④の前提)。⑤は①〜④を受けて決まる

以下、1つずつ見ていきます。

論点① 目的 ― 成果を何に使うか

取り組みの成果の使い道は、大きく3つあります。使い道によって、従う規格と求められることが変わります。

  • 自社の Scope3 の報告に反映させる:GHG プロトコルの Scope3 の規格に沿って算定します。農地など土地に由来する排出と除去については、新しい規格 Land Sector and Removals Standard(LSR)に対応する必要があります。LSR は2027年1月1日に発効します※3

  • 製品のカーボンフットプリント(CFP。製品1つあたりの排出量)に反映させる:ISO 14067 や、GHG プロトコルの製品の規格(Product Standard)など、CFP の規格に沿って算定します

  • 取り組みそのものを顧客に伝える:決まった1つの型はなく、伝え方はさまざまです。たとえば、産地での取り組みから生まれたカーボンクレジットを、その産地の野菜などの農産物と一緒に調達し、あわせて消費者に伝えるという形も考えられます。この場合、クレジットで自社の Scope3 の排出量が減るわけではない点は、先に見たオフセットと同じです。消費者向けに伝える場合は、表示の規制にも注意が要ります

1つの取り組みを複数の使い道に使うこともできますが、根拠は使い道ごとにそろえる必要があります。そのため、企画ではまず使い道を決めます。使い道ごとの規格の違いは、別の記事で詳しく扱います。

論点②③ 対象と介入、トレーサビリティ ― 行き来しながら決める

② 対象と介入 ― どの原料・産地で、何をするか

対象を選ぶとき、まず候補に挙がるのは、自社にとってインパクトの大きい原料です。調達量が多い、あるいは排出量が大きい原料です。

ただ、それだけでは決まりません。プロジェクトとして進めやすいかどうかも見る必要があり、その中心がトレーサビリティ、つまり原料の出どころの追いやすさです。インパクトが大きくても、産地まで追えなければ、取り組みの効果を数字に表せないからです。

私は、自社にとってのインパクトの大きさと、トレーサビリティの追いやすさの2つで対象を選ぶことをお勧めしています。両方がそろう原料が、最初の候補になります。

図3 対象は「自社にとってのインパクトの大きさ」と「トレーサビリティの追いやすさ」の2つで選ぶ。両方がそろう原料が最初の候補

対象が決まったら、介入の種類を決めます。削減なら、施肥の見直しや、乾燥・加工工程の燃料の切り替えなどです。除去なら、農地へのバイオ炭の施用などです。本連載では、除去の例としてバイオ炭で説明していきます。

どちらの場合も、取り組みの効果を数字に表すには、取り組んだ農場の一次データが要ります。国や地域の平均値のままでは、取り組みの効果が数字に映らないからです。

③ トレーサビリティ ― 原料の出どころをどこまで追えるか

インセットを行うには、取り組みが実際に自社のサプライチェーンの中で行われたことを示す必要があります。ところが農産物は、産地の組合などが共同で集荷して出荷したり、輸出入を担う会社が間に入ったりと、サプライチェーンが複雑になりがちです。工業製品に比べて、途中でほかの産地のものと混ざりやすい性質もあります。

その流れを追いかけて、除去した炭素が、自社が原料を調達している地域(少なくとも一次集荷点に原料を出す範囲)の土地にとどまっていると言えなければなりません。私は、これがインセットの実務でいちばんのネックになると考えています。

トレーサビリティの水準は1つではありません。GHG プロトコルが LSR の解説書として出している LSR Guidance は、原料をどこまで追えているかを、5つの水準に分けています※4。

  1. 世界:産地が分からない

  2. 法域:国や州など、産地の行政区域が分かる

  3. 調達地域:一次集荷点や一次加工施設が分かる

  4. 土地管理単位:農場などの管理単位が分かる

  5. 収穫圃場:収穫した圃場まで分かる

番号が大きいほど、細かく追えていることになります。

ここで排出と除去の扱いが分かれます。取引先が分からなくても、排出は世界平均や国平均などの係数で算定できます。除去はそうはいきません。調達地域より粗いデータでは、除去は計上できません※5。除去した炭素が、どの土地にとどまっているかを確かめ続ける必要があるからです。つまり、除去を計上するには、少なくとも「調達地域」の水準まで追えていることが前提になります(ほかの要件も満たす必要があります)。

図4 トレーサビリティは5つの水準。排出はどの水準でも算定できるが、除去には「調達地域」以上の細かさが必要


ただ、私が見てきた範囲では、一次集荷点まで把握できている会社はほとんどありません。原料を納めるサプライヤーの立場でも、同じです。だからこそ、取引先と協力しながら、できる限り追えるようにしていくことが、企画の大事な仕事になります。

論点④ 算定と証明 ― 除去をどう数え、誰に確かめてもらうか

除去の量を正しく測定する

除去した CO2 の量を計算するのは、そう簡単ではありません。同じ取り組みでも、算定の方法によって正確さが変わり、出てくる数字も変わります。そのため、正しく算定するための手順を作っていく必要があります。

ただ、1つはっきり言えることがあります。除去を過大に計上してはいけない、ということです。LSR も、算定の原則として、関連性・完全性・一貫性・透明性・正確性の5つに加え、除去には保守性(除去を多く見積もらない)と永続性(炭素がとどまっていることを監視し、失われた分を計上する)を求めています※6。

データについても、LSR は、除去を Scope3 に載せるなら、実際に取ったデータに基づいて測定することを求めています※7。データベースにある一般的な除去の係数(排出係数のようなもの)を、購入量や施用量といった活動量に掛けるだけでは足りません。

算定の手順は、自分で組み立てる

これらの原則と要件を満たす算定のやり方は、1つに決まっているわけではありません。取り組みごとに、企業が自分で組み立てる必要があります。ここが、インセットの難しいところの1つです。

私が見てきた範囲では、組み立てるときに、既存のカーボンクレジットの方法論(算定の決まりごと)をもとにするやり方がよく取られます。バイオ炭なら、Verra の VM0044、Puro.earth のバイオ炭の方法論、Isometric のバイオ炭のプロトコルなどがあります。方法論をそのまま使う場合もあれば、それをベースに調整して使う場合もあります。いずれの場合も、LSR の要件を一つひとつ満たしているかを確かめる必要があると考えています。

誰に確かめてもらうか

算定の結果を第三者に確かめてもらう方法は、大きく2つあります。1つは、自社の Scope3 の算定全体を検証機関に確かめてもらい、その中でインセットの取り組みも確かめてもらう方法です。もう1つは、取り組み(プロジェクト)ごとに認証を受ける方法です。

プロジェクトごとの認証では、仕組みづくりが進んでいます。たとえば Verra の Scope 3 Standard Program は、取り組みの成果を「Scope 3 Unit(S3U)」として発行する仕組みを、段階を追って整えています(2026年9月開始。現在はプロジェクトの候補を掲載する段階)※8。SustainCERT は、取り組みによる削減・除去を1トンごとの「Impact Unit」として検証し、Scope3 の算定で一般的な排出係数を置き換える形で使えるようにする仕組みを設けています※9。どれを選ぶかは、①の使い道に照らして決めます。確かめてもらうルートと選び方は、別の記事で扱います。

論点⑤ 費用と体制 ― 誰が負担し、誰と進めるか

サプライチェーンで価値を分け合う

インセットの費用を考えるうえで大事なのが、取り組みの価値をサプライチェーンの複数の会社で分け合える、という考え方です。

LSR では、同じ農場での除去を、その原料にかかわる複数の会社がそれぞれの Scope3 に報告できます。商社、加工会社、食品メーカー、小売のように、バリューチェーンの段が違う会社どうしであれば、同じ除去を報告できるとしています。一方、同じ段や近い段の会社どうしでは二重に数えられないため、除去を割り振る必要があります(割り振りの合計は100%まで)※10。こうした、同じ取り組みの成果を複数の会社が報告・発信することを「コークレーム(co-claim)」と呼びます。コークレームは当たり前になりつつあり、今後はバリューチェーンの各段に広がるとの見方も示されています※11。

たとえば、農場でバイオ炭を施用した成果は、原料を扱う商社、加工会社、食品メーカー、さらに製品を扱う小売にとっても、それぞれのサプライチェーンの中の取り組みです。脱炭素の価値を1社で抱えるのではなく、サプライチェーンの会社が分け合いながら、連携してプロジェクトを進められる。これはインセットの大きな利点です。

ただし、成果をカーボンクレジットにして売る場合は別です。クレジットは購入した1社だけが主張できるものなので、二重に数えないよう、誰のものかを契約で明確にしておくことが大切です。

図5 インセットの効果は、商社・加工会社・食品メーカー・小売など各社の Scope3 に反映できる可能性がある(コークレーム)。オフセットのクレジットは、購入した1社だけが主張できる

社内の財布

そのうえで、社内では誰が費用を持つかを決めます。調達部門かサステナビリティ部門か、どの予算で負担するか。製品の価格に転嫁するかどうか。こうした点は会社ごとの判断で、企画の段階では候補を挙げておけば足ります。

まとめ

  • インセットは、自社のサプライチェーンの中での削減・除去の取り組みです。外で生まれたカーボンクレジットを買うオフセットとは、取り組む場所と、自社の数字への表れ方が違います。

  • 企画では5つのことを考えます。①目的が全体を決め、②対象と③トレーサビリティは行き来しながら決め、④算定と証明は並行して考え、⑤費用と体制は①〜④を受けて決まります。

  • 対象は、自社にとってのインパクトの大きさと、トレーサビリティの追いやすさで選びます。農産物のサプライチェーンは追いにくく、ここが実務でいちばんのネックです。除去を計上するには、少なくとも調達地域まで追えることが前提です。

  • 除去は過大に計上しないことが大前提です。LSR の原則と要件を満たす算定の手順を、既存の方法論なども手がかりに、自分で組み立てます。

  • 取り組みの価値は、サプライチェーンの会社で分け合えます。

最初の一歩は、ゴールのイメージを描くこと

規格の要件を読むと、どれも満たさなければ始められないように見えるかもしれません。ただ、私は、最初から完璧な算定の仕組みを用意する必要はないと考えています。

まず、取り組みが実を結んだとき、誰と、何を言えるようになっていたいか。そのゴールのイメージを描くことから始めていただきたいと思います。ゴールが決まれば、使い道が決まり、選ぶべき原料と、要るデータが見えてきます。

企画を進める中で、決めきれないことが出てきたときは、ご相談ください。TOWING の取り組みは、サービス紹介ページにまとめています。


執筆者 山田 大河 株式会社TOWING 最高サステナビリティ責任者(CSuO) トヨタ自動車にて、環境規制対応および脱炭素事業開発を推進。社有林の吸収量を工場の排出と結びつける取り組みの立ち上げに携わる。2024年より TOWING に参画し、脱炭素新規事業開発を担当。高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」による J-クレジットのプログラム開発や、食品・飲料企業のカーボンインセットの社会実装に向けた取り組みをリードしている。

注

※1 GHG Protocol, Land Sector and Removals Standard v1.1(以下 LSR Standard), Requirement 31

※2 GHG Protocol, Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard(2011), 11.1/GHG Protocol, Land Sector and Removals Guidance v1.0(以下 LSR Guidance), p.454

※3 LSR Standard v1.1。承認 2025-10-01、公表 2026-06-30、発効 2027-01-01

※4 LSR Guidance v1.0, Table 5.1, p.59

※5 LSR Guidance v1.0, p.83(排出)、Section 5.4.1 p.71・Table 5.4 p.82(除去)

※6 LSR Standard v1.1, Requirement 2(p.9), Section 3.2, Table 3.1, p.9-10

※7 LSR Standard v1.1, Requirement 21(p.66)・21.LMR(p.74)

※8 Verra, Scope 3 Standard v1.0(2026-09-15)/Verra「Scope 3 Standard Program」ウェブページ(2026-10-05 閲覧)

※9 SustainCERT, "How can Impact Units support value chain decarbonization?"(ウェブページ、2025年10月公開、2026-10-05 閲覧)

※10 LSR Guidance v1.0, 12.4.4, p.313(割り振りの合計の上限は LSR Standard v1.1, Requirement 22, p.66)

※11 BSR, "Scaling Scope 3 Interventions for Climate and Nature: What Companies Need to Know Now"(2026、2026-10-05 閲覧。公開日はページに記載なし)



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