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インセットで、何が言えるのか

2026/11/6

投稿者:スタッフ朝倉

インセットで、何が言えるのか

執筆:山田 大河(株式会社TOWING 最高サステナビリティ責任者〔CSuO〕)

「カーボンインセット」(以下、インセット)とは、自社のサプライチェーンの中で、温室効果ガスを減らしたり、大気から取り除いたりする取り組みのことです。ただ、この言葉にはまだ1つに定まった定義がありません。取り組み全般を指す人もいれば、決まったルールに沿って自社の排出量の数字に反映できるものだけを指す人もいます。

同じ「インセット」という言葉で話していても、思い描いているゴールは人によって違います。そのまま話を進めると、途中で食い違いが表に出てきます。本稿では、まずインセットという言葉の意味を整理します。そのうえで、目的ごとに「何が言えるのか」「そのために何が必要か」を、できるだけかみ砕いて説明します。

はじめに押さえておきたい言葉

本稿で使う言葉を、先に簡単に説明しておきます。

  1. 削減と除去:削減は、出る温室効果ガスの量を減らすことです。除去は、大気中の CO₂ を取り込み、土や木などに貯めることです。たとえばバイオ炭は、植物に含まれる炭素を炭にして土に入れ、長く貯める除去の方法です

  2. Scope3(スコープ3):会社の排出量のうち、原料の調達から製品の使用・廃棄まで、取引先など自社の外で出る分です。自社の工場などから直接出る分(Scope1)、使う電気などの分(Scope2)と区別して数えます

  3. CFP(カーボンフットプリント):製品1つあたりについて、原料から廃棄までに出る温室効果ガスの量と、取り除いた量を合わせて、CO₂ に換算して表したものです

  4. カーボンクレジット:削減や除去の量を、第三者の仕組みで確かめて、売り買いできるようにしたものです

  5. オフセット(相殺):自分の排出量を、ほかで生まれた削減や除去(クレジット)で埋め合わせる考え方です

  6. GHG プロトコルと LSR:GHG プロトコルは、企業の排出量の数え方を定めた国際的なルールです。LSR(Land Sector and Removals Standard)はその1つで、農地などの土地での取り組みと、除去の数え方を定めています(今の版は森林を対象にしていません)。今の版は2026年6月に公表され、2027年1月から使われます※1

「インセット」とは ― 広い意味と狭い意味

「インセット」は、GHG プロトコルなどのルールが定めた用語ではありません。そのため、使う人によって指す範囲が変わります。

ここで、説明のための架空の例を置きます。ある食品メーカーが、原料を育てる農家と協力して、畑にバイオ炭をまく取り組みを支えたとします。この取り組みを「インセット」と呼ぶかどうかは、言葉の意味をどこまで広くとるかで変わります。

  1. 広い意味:サプライチェーンの中での、削減や除去の取り組み全般です。上の例のように産地で取り組み、その様子を顧客や取引先に伝える形も含みます。産地での取り組みから生まれたカーボンクレジットを、その産地の農産物とあわせて調達する形も、ここに入ります

  2. 狭い意味:そのうち、GHG プロトコルのルールの要件を満たし、自社の Scope3 の数字に反映できるものです。削減なら排出量に、除去なら除去量に表れます

図1 「インセット」には広い意味と狭い意味がある。狭い意味は広い意味の一部(出典は記事末尾)

本連載では、狭い意味、つまり Scope3 の数字に反映できるインセットを中心に扱います。私は、Scope3 の数字に成果を表すことが、企業が大規模なインセットを行う際のもっとも重要な意義のひとつだと考えているからです。ただし、広い意味の取り組みに価値がないわけではありません。後で見るとおり、目的によっては広い意味の形のほうが合うこともあります。

最初に決めるのは「成果をどこに表すか」

インセットに取り組む目的は、取り組みの成果をどこに表すかで、大きく3つに分かれます。先ほどの架空の例で言えば、畑にバイオ炭をまいた成果を、次のどれに使うかという話です。

1. 自社の Scope3 に反映する:会社の排出量や除去量の数字に表す

2. 製品の CFP に反映する:製品1つあたりの数字に表す

3. 取り組み自体をPRして商品価値にする:数字には表さず、取り組みそのものを顧客や取引先に伝え、商品の価値にする

1と2の成果も、もちろん顧客や取引先に伝えられます。違いは、成果を数字として示すかどうかです。

大手企業では、Scope3 の削減から検討が始まることが多くあります。一方、Scope3 をまだ細かく算定していない企業では、まず取り組みを始めて顧客に伝えたい、という形から入ることもあります。どれが正解ということはありません。

大切なのは、どれを目指すのかを最初に決めておくことです。決めないまま進めると、ずれが起きます。たとえば「取り組み自体をPRする」つもりの企画が、社内では「Scope3 が減る」話だと受け止められることがあります。そうなると、社内や取引先との合意が取りづらくなります。最初に「この取り組みで、何を言えるようになりたいか」を一文で書いておくことをお勧めします。

目的ごとに、言えることと必要なこと

目的が決まると、従うルールと、言えることの範囲が決まります。3つの目的ごとに、言えること、そのために必要なこと、気をつけたい点の順に見ていきます。

図2 1つの取り組みの成果には複数の行き先があり、どこに出すかで言えることが変わる(出典は記事末尾)

1. 自社の Scope3 に反映する

取り組みの成果の使い道は、大きく3つあります。使い道によって、従う規格と求められることが変わります。

【言えること】
取り組みの効果を、会社の Scope3 の数字として示せます。ただし、数字に表れるのは、算定に使うデータと方法がその効果を拾える場合です※2。また、表れ方は削減と除去で違います。削減は、Scope3 の排出量が減る形で表れます。除去は排出量を減らすのではなく、排出とは別に「除去量」として報告します※1。バイオ炭は除去の取り組みなので、次に見る要件を満たせば、除去量として示せます。

なお、同じ取り組みの成果を、サプライチェーンの中の複数の会社が、それぞれの Scope3 に数えることもできます。たとえば産地での取り組みによる炭素の除去は、原料を加工するメーカーも、その加工品を仕入れて販売する商社や小売企業も、それぞれ次に見る要件を満たせば、自社の Scope3 の除去量として報告できます。これは GHG プロトコルも認めている考え方で※3、一般に「コークレーム」と呼ばれます。詳しくは別の記事で扱います。

【必要なこと】
農地での取り組みや除去を Scope3 に反映するには、LSR の要件を満たす必要があります※4。除去の場合、主に次の3つが求められます※5。

  1. 除去が起きた場所(畑、または原料を集める産地の範囲)までたどれること

  2. その場所のデータを使って、炭素の貯留量を計算すること

  3. 炭素が貯まり続けているかを、継続的にモニタリングすること

【気をつけたい点】
カーボンクレジットのルールに沿って削減や除去の量を計算しただけでは、Scope3 には反映できません。Scope3 に反映するには、それとは別に LSR の要件に対応する必要があり、除去の場合は上の3つなどが求められます※4※5。

図3 Scope3 に反映すると、削減は排出量の減少として、除去は排出とは別の除去量として言える。そのためには LSR の要件が必要で、クレジットのルールで計算するだけでは足りない(出典は記事末尾)

2. 製品のCFPに反映する

【言えること】
製品の原料をつくる過程での削減や除去は、その製品の CFP の計算に表れることがあります※6。

原料を加工会社に納めるような会社にとっては、CFP の低い原料は価値になりえます。納める先の企業も、環境負荷の低い原料を求めていることが少なくないためです。たとえば、CFP の値とあわせて環境負荷の低さを示し、従来よりも高い単価で製品を販売する、といった使い方です。

【必要なこと】
まず、取り組みが CFP の計算の範囲に入っていることです。そのうえで、どの範囲を、どのデータで計算したかを示せることが前提になります。CFP の算定の仕方は企業によってさまざまで、自社で算定する場合もあれば、ISO 14067 などに沿った検証まで受ける場合もあります。自社のやり方に合わせて、取り組みの効果を適切に計算に反映する必要があります。

【気をつけたい点】
CFP に入れられるのは、製品の原料をつくる過程(CFP の計算の範囲の内側)で、実際に減らしたり取り除いたりした分です。ほかの場所で生まれたクレジットを買って埋め合わせても(オフセット)、製品をつくるときの排出そのものは変わらないため、CFP は下がりません※6。

図4 CFP の計算の範囲の内側での削減や除去は CFP に表れうる。範囲の外のクレジットで相殺しても CFP は下がらない(出典は記事末尾)

3.  取り組み自体をPRして商品価値にする(産地の農産物とクレジットをあわせて調達する)

【言えること】
広い意味のインセットとして、取り組みを PR する手段です。言えるのは「何をしたか」です。たとえば「この原料の産地での取り組みから生まれたクレジットを調達し、原料の生産に伴う排出をオフセットした」とは言えます。

Scope3 に反映するための要件を、必ずしも満たす必要はありません。その分、始めやすい形です。

【必要なこと】
この取り組みは広い意味のインセットではありますが、仕組みとしてはカーボンオフセットに当たります。そのため、環境省のカーボン・オフセットのガイドラインに沿って、誰が、どの活動の排出を、どのクレジットでオフセットしたかなどを示します※7

【気をつけたい点】
クレジットが原料の産地で生まれたものでも、それだけで Scope3 に反映できるわけではありません※4。そのため、「自社の排出量が減った」とは言えません。「この製品の排出量が減った」とも言えません。伝える一文は、資料で裏づけを示せる形にしておきましょう。消費者に向けて伝える場合は、広告や表示の規制にも注意が要ります。

図5 産地の農産物とクレジットをあわせて調達する形で言えるのは「何をしたか」で、「製品の排出量が減った」とは言えない(出典は記事末尾)

どの目的から始めればよいか

3つの目的に、優劣はありません。次の問いを手がかりに、自社に合うものを選びます。

  1. Scope3 の削減目標を持っている、または除去量を報告するつもりがある

    → 1. 自社の Scope3 に反映する

  2.  製品の CFP をすでに計算している、または顧客から求められている
    → 2. 製品の CFP に反映する

  3. Scope3 や CFP の計算はこれからだが、まず取り組みを始めてPRしたい
    → 3. 取り組み自体をPRして商品価値にする

1つの取り組みで、複数の目的をかなえることもできます。たとえば、同じ成果を Scope3 と CFP の両方に反映し、その数字を使って PR する、といった形です。ただし、組み合わせてはいけないものもあります。それが次に見る「二重計上」です。

同じ成果を二度数えない

クレジットは Scope3 から差し引けない

カーボンクレジットを買っても、その分を Scope3 の数字から差し引くことはできません。自社のサプライチェーンの中での取り組みから生まれたクレジットでも同じです。たとえば、原料産地の畑にバイオ炭をまいた成果をクレジットにして自社で取得・使用しても、Scope3 からは差し引けません※8。

理由は、量の数え方が違うためです。クレジットは、「その取り組みをしなかった場合」と比べて、どれだけ減らしたか、取り除いたかを計算します。一方、Scope3 は、実際に出た量と取り除いた量を数えます※4。

サプライチェーンでの取り組みを Scope3 に反映するには、クレジットとは別に、LSR に沿って成果を計算する必要があります※4。

1つの成果は、1つの使い道に

してはいけないのは、同じ成果を、自社の数字とクレジットの両方に使うことです。

先ほどの架空の例で考えます。畑にバイオ炭をまいた成果を、食品メーカーが自社の Scope3 に反映したとします。その一方で、同じ成果からクレジットが発行され、オフセットに使われたとします。すると、1つの成果を2回数えたことになります。これが二重計上で、GHG プロトコルは避けるよう求めています※9。

一方で、次のような使い方は問題ありません。

  • クレジットにしていない成果を、LSR に沿って計算し、自社の Scope3 に反映する※9

  • 上記と同じデータをもとに、会社全体の Scope3 と、製品1つあたりの CFP の両方を計算する(GHG プロトコルも、この2つを並行して計算することを想定しています)※10

  • 成果を分けて、一部をクレジットにし、残りを自社の成果として数える(クレジットにした分は、自社の成果から除きます)※9

図6 同じ成果を、自社の Scope3 と、オフセットに使うクレジットの両方に数えない(出典は記事末尾)

ルールの見直しは続いている

最後に、ルールがまだ動いていることも付け加えておきます。GHG プロトコルは、クレジットなどの扱い方の見直しを進めています。また、国際標準化機構(ISO)と組んで、企業の排出量や製品の CFP のルールをそろえていく方針も打ち出しています※11。

脱炭素のルールは次々と改定されています。すべての改定が終わるのを待っていては、企画を進めることはできません。今のルールで何が言えるかを押さえておけば、ルールが変わったときにも、どこを直せばよいかが分かります。まずは企画書の1行目に、「この取り組みで、誰に、何を言えるようになりたいか」を一文で書くところから始めていただきたいと思います。

企画を進める中で、決めきれないことが出てきたときは、ご相談ください。TOWING の取り組みは、サービス紹介ページにまとめています。


執筆者 山田 大河 株式会社TOWING 最高サステナビリティ責任者(CSuO) トヨタ自動車にて、環境規制対応および脱炭素事業開発を推進。社有林の吸収量を工場の排出と結びつける取り組みの立ち上げに携わる。2024年より TOWING に参画し、脱炭素新規事業開発を担当。高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」による J-クレジットのプログラム開発や、食品・飲料企業のカーボンインセットの社会実装に向けた取り組みをリードしている。

注

※1 GHG Protocol, Land Sector and Removals Standard v1.1(以下 LSR Standard。公表 2026-06-30、発効 2027-01-01), Requirement 31(p.107)・Requirement 32(p.108)

※2 GHG Protocol, Land Sector and Removals Guidance v1.0(以下 LSR Guidance。公表 2026-06-30、発効 2027-01-01), p.454・p.463(第18章注4)

※3 LSR Guidance v1.0, 4.4.2, p.48-49/12.4.4, p.312-313/LSR Standard v1.1, Requirement 22(p.66)

※4 LSR Standard v1.1, 1.2, p.2/Chapter 18, 18.1, p.100

※5 LSR Standard v1.1, Chapter 12, Requirement 19〜23(p.65-67)

※6 経済産業省・環境省「カーボンフットプリント ガイドライン」p.5(用語の定義「オフセット」)・p.14(各プロセスの排出量と除去・吸収量の合算)・p.40(土地利用に関する除去を含める場合)・p.77(2023-03)

※7 環境省「カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0」第一部 1.、p.3(カーボン・オフセットとは)・3.(1) 製品・サービスオフセット、p.7/第二部 6. 情報提供・表8、p.31-32(2024-03 改訂)

※8 LSR Guidance v1.0, p.454/GHG Protocol, Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard(2011), Chapter 11, p.119

※9 LSR Guidance v1.0, p.454・18.4.3, Equation 18.1, p.457-458・Table 18.3, p.459・p.463(第18章注4)/LSR Standard v1.1, 18.1(p.100)・Requirement 30(p.101)・30.1(p.102)

※10 LSR Guidance v1.0, 1.5, p.7・Box 6.1, p.96/LSR Standard v1.1, Requirement 3(p.15-16)

※11 GHG Protocol, "Actions and Market Instruments Phase 1 Progress Update"(2026-03)/ISO「ISO and GHG Protocol partnership」(2025-09)(いずれも 2026-10-06 閲覧)

※本稿は国内の企業・読者を前提としています。EU の環境表示規制には触れていません。

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